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荻野泰三 編 弁護士

僕らもみんな出来なかった

第31回 荻野 泰三 編

「志学ニュース」2004年6月号より

久々に帰って参りました。そして再び田端の地を踏みました。末次と共に志学ゼミに縁を感じております。私は高校生時代、文系でありながら数学が好きで得点源にもしていました。中学生のときも数学が好きだったわけですが、そんな私でも中学生時代に数学の期末テストで5点(100点満点です)という悲惨な点数を取ってしまったことがあります。と言いますか、あの経験があったがゆえに、それ以降数学が得意になったわけですが。

その時のテストは図形の証明問題が試験範囲でした。それまでの数学の問題は計算問題が中心で、答えを出すことが最も重要でした。私は答えを出すことに集中して、途中式を書かなければならないときも数式を適当に並べて書いていました。しかし証明問題というのは結末が決まっていて、答案として必要なのは途中の証明課程です。こういうこれまでとは異なった部類の問題に対して私は全く対応できず、解くための思考方法や答案の書き方が全然分かりませんでした。

結局試験当日になっても方策は見つからず、漠然と試験を受けることになりました。一応何か書かなければならないということくらいは分かっていましたから、いろいろと書きました。よく分からんけど分量は書いたから50点位はあるだろう、と受けた直後は高をくくっていました。しかし結局、一瞬誤植ではないのかと思ってしまったほどのまさかの5点という点数を頂いてしまったわけです。答案の返却は数学の先生が個々の生徒一人ずつに渡していく方式でされたのですが、自分の答案を受け取ったときの数学の先生が私に向けたあの何とも言えない強い目を未だに忘れることができません。

それまで数学に対して持っていた自分のプライドはズタズタでした。周りの友人もそれほど良くはなかったものの、5点なんて点数はなかなか取っていませんでした。次回の試験範囲も証明問題であることは分かっていたので、私はこれはマズい、どうにかしないといけないと焦燥にかられました。

私がそこでやったのは、まず、教科書でされている証明の書き方と授業で黒板に書かれた証明の仕方を何度も読み込んだり書き写したりして徹底的に覚えることです。書き方が悪いからいくら書いても点数に結びつかなかったわけで、まず答案のお約束を身につけようと思いました。

そうして書き方を覚えていくうちに、証明問題では答案の書き方と頭の中での解き方とは逆であることが多いということに気付きました。たとえばある図形問題でふたつの線分が同じ長さであることを二つの三角形の合同を利用して証明する場合、答案の流れは「問題文や図形から合同条件を見つける → 三角形の合同を言う → 合同だから長さが等しい」となります。しかし解くときの思考は逆で、「長さが等しいことを証明したい → 三角形の合同が言えればいい → 条件がそろっているから証明できる」という流れになります。この逆の関係に気付けたことで、ようやく答案の書き方が理解できたのです。私がたくさん答案を書いても点数にならなかったのは、これに気付いていなかったからだと思います。

このように証明問題をどうやって考えて解けばよいか、そしてそれをどう解答にしていくかということに気付いていくことで、パァーっと前が明るくなったように感じたのを覚えています。あとは問題をたくさん解いて練習するだけでした。次の試験では90点を取り一気にトップクラスへ。さらにこの思考と答案の書き方はこの時の証明問題だけにとどまらず、高校での数学や他の科目でも役に立ちましたし、さらに現在学んでいる法律の分野でも役に立っています。

皆さんも学校の試験で悪い点数を取ってしまって、かなり気持ちが凹んだことがあるでしょう。でも実はそれはチャンスなのです。悪ければ悪いほど上昇気流に乗るためのバネになるはずです。僕が数学を武器に東大に入れたのも、そして数学を教えることができるようになったのも、全てがあの5点のテストのおかげだと言っても過言ではありません。大切なのは凹んでばかりいることでなく、それを克服すべく前向きに一歩を踏み出すことです。悪い点数は変わらないけど、それを受け止める皆さんの気持ち・行動次第で将来の自分は変えることができるのです。

出来なかった。じゃあ次に何をしますか?

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