「志学ニュース」2005年9月号より
私は今、北海道札幌市で小学校の教師をしています。この仕事をしているというのも、志学ゼミの主宰阿部先生(私たち生徒は「阿部さん」と呼んでいたので、以後通称で書きます)の一言「上村、お前、教師にむいているんじゃないか。」があったことはとても大きいことでした。
そんな阿部さんと出会ってから20年にもなります。青春時代を志学ゼミと共に歩んできた私ですが、そこから学んだ貴重な経験が今の自分を支えているのです。
小学校時代の私は,思い出したくもないほどひどいものでした。友達の後を付きまとっては、友達の命令を聞いて他の子をいじめたり、逆にいじめられたり…。悪いことはこそこそと、人の顔を伺いながら自分で何かを考えて行動するということがない、言わば自主性の無い子どもでした。
「Lesson1 10秒早読み。ヨーイドン!」 今でも春になると「早読み特訓」のことを思い出します。だらだらと流された生活からびしばしと鍛えられた生活に一変。小学校卒業からまもなく入塾したその日から、朝の9時から夜の6時まで、阿部さんの大先輩、松川先生によるマン・ツー・マンの早読み特訓が待ちうけていました。
ひたすらお経を唱えるがごとく、何回も何十回も同じ英文を繰り返し読み、時には、30cmものさしの「ピシッ」という音を聞いたり、目から汗を流しながら、なんと、中1英語の教科書を3日で暗記できたのです。ただやらされていた感覚でいた私ですが、「頑張ったのはお前だぞ。やればできるじゃないか。」の先生方の一言が何より嬉しく、「やればできる」自信がつきました。
余談ですが、講習の時の昼食は生徒たちで自炊をしていました。阿部さんから500円の資金が与えられ、買い物に行き、あそこの流しを使って10人分の昼食を調理していました。
常に毎回の授業が高校生クイズのようなポイントゲームになっていて、必ず10ポイントを達成しなければ家に帰ることができませんでした。特に夏季講習ともなると、授業時間が朝の9時から夜の9時になり、加えて宿題が算数だけでも20ページ、他の教科も平均10ページは出ていました。
宿題を終えて寝るのが日の出を迎えてからというのが当たり前でした。「えーっ、これも宿題~ぃ!?」などと阿部さんに文句を言おうものなら、マイナス3ポイントにされたりして、帰るのが一層遅くなりました。ポイント復活のための罰ゲームも当たり前。「解の公式」を通行人に聞いてくる、国語の詩を田端駅前で読んでくるなど、私から見ると無謀なものばかりでした(度胸はつきましたが…)。
他の罰ゲームに「国語が苦手な者には風呂掃除、算数が苦手な者にはトイレ掃除」があり、なんで自分たちがやらされるのかが当時は分かりませんでした(苦手だった国語の成績が2月頃伸びたのが今でも不思議なことです。これぞ「阿部マジック」)。
ちょうどそのころ、阿部さんは、よく「人の喜びは自分の喜びなんだ」というようなことをおっしゃっていました。辛い日々の連続でしたが、翌春、教室の生徒たちの志望校合格の張り出しがある度に、みんなで合格を喜び合いました。頑張っているのは自分だけでなく、友達と一緒に困難に立ち向かい、互いに励まし合いながら乗り越えられたことを知りました。
阿部さんに、「志学ゼミは、小学生から就職の面倒まで幅広いからなあ。」なんて冗談を言われながら、私なんかは一番恩恵を受けた人間かもしれません。志学ゼミで講師をさせてもらいながら、教職の勉強のことを逐一報告していました。暗記の仕方など、志学ゼミで学んだ方法(ひたすら書く、ひたすら小テスト)を思い出しながら必死にやりました。おかげさまで、1回で札幌市の教職試験に合格しました。
教師の世界は決して甘いものではありません。今までに250人の子どもたちと出会ってきましたが、一人ひとりの子どもたちはそれぞれに異なる個性をもっているのです。ということは、教師のかかわり方や教え方もそれぞれの子どもたちにこたえていくものでなければなりません。
ここで阿部さんの言葉、「目の前にいる人(子ども)たちをいかに喜ばせるか。」を思い出します。日々成長する子どもたちをどう捉え、どう実践していくか。日々、結論のない世界に頭を悩ませながら”一生勉強 一生青春”(相田みつを)しています。
私は人間として教師としてまだまだ未熟者です。今までを振り返って足りないことがいくつもあります。そんな私が言うのもなんですが、学生時代を過ごしている皆さんに言っておきたいことがあります。
『人』というのは、お互いに支え合いながら生きているのです(金八先生の名文句)。生きていく上で、たくさんの人とコミュニーケーションしていくことになります。そこで豊かに人とかかわるためにはぜひ、いろいろな自然、歴史、文化、人に出会ってほしいと思います。直接出会えなかったとしても、本があります。本に出会いたくさん読むことで、自分以外のものからたくさんの刺激をもらうことができます。
やらされたと思ってもらっていいので、時間のある学生時代のうちに(社会人になるとなかなか時間がありませんよ!)、とことんまでに何かに打ち込み、やり遂げた時の達成感を味わってください。みなさん、誰でも「やればできる。」のです。